2017/05/19

YODについて②


前回の記事の続きです。
YODについて考えるとき、私はいつも太宰治の「トカトントン」という短編を思い出します。少しあらすじを書いてみます。

主人公の男性は、戦後除隊され故郷の青森に帰って郵便局員として勤め始めます。
ひたすら他人の紙幣を数える日々。そんな何の変化もない毎日の中、ふと心をかすめた出来事をきっかけに様々なことにのめりこんでいくのです。

大いに努力して書き進め、あともう何枚かで完成する100枚の小説。
誰よりも早く出勤して職場の大掃除をし、獅子奮迅の働きでこなす仕事。
この人と一緒になれたら、どんな苦労をしてもいいと思えるほど好きになった女性。
倒れ込むほどの情熱でマラソンに打ち込む青年達に触発され、始めてみたキャッチボール。

ふとしたことをきっかけに心が震え、燃え立ったとき、彼はわき目もふらず一生懸命取り組み始めます。
その様子は強迫観念さえ感じさせますが、当然ながら、どんどん上達して手応えを感じられるようになってくるわけです。
そしてその末に彼は「自分の道はこれだったんだ!人生を懸けて取り組んでみよう!」とその都度決意するのです。

しかしそうやって決意した瞬間、決まってどこか遠くから金づちで釘を打つような「トカトントン」という音が聞こえてきます。
そうなるとそれまで感じていた熱い思いはどこへやら、全て雲散霧消してしまって、またぼんやりした元の生活に戻ってしまう――そんなお話しです。



「トカトントン」を踏まえて、YODを持つ方の多くが感じていらっしゃるであろう特徴をいくつか挙げてみたいと思います。


  • 家族や友達がいるのに、自分がその集団に属せていないという感覚・居場所の無さ
  • 自分は他の人と違うというぼんやりした感覚・特殊な人間であるという感覚
  • 何かを探しているのだけれど、それが何なのか自分でも分からない不安
  • 常に物足りなさを感じているため、何かにのめりこんで徹底的に取り組む傾向
  • 自分を過度に追い込んでしまう・プレッシャーをかけ続けてしまう傾向
  • 常に不安定なため、精神的な安定を得るのに大変な苦労を要する傾向
  • 生涯において、何度も中断され、方向転換を迫られる傾向


出生図にYODを持つ人が、自分の人生でその象意に辿り着くまでの試行錯誤はとても苦しい道のりです。
しかしそこに辿り着くことができれば、その道がどんなに大変な茨の道であっても、大きな喜びが得られるのだと思います。



「トカトントン」は「虚無」をテーマとした、普通の短編小説です。
ですから、この記事を読んで下さっている方にはあくまでYODの象徴やイメージのひとつ、といった観点でとらえて頂きたいのですが、どこからか聞こえてくる「トカトントン」という音は、主人公を本当の道に導くためのYODの意志なのかもしれないと今になって思うのです。

私が子供の頃、この短編にやけに引き込まれたのは、自分の出生図に太陽を頂点とするブーメラン型を持っているため、子供ながらに何かシンパシーを感じ取っていたからかもしれません。
ちなみに、「ブーメラン型」とは、YODを形成する頂点の天体から見てオポジションの位置にも天体がある複合アスペクトです。
YODとはかなりニュアンスが違ってきますが、YODの影響下にあることに変わりはありません。ですからこの短編はブーメラン型の要素も持っているように思うのです。
ブーメラン型についてはまたの機会に書いてみたいと思っています。

トカトントン」は「青空文庫」にも収録されています。ご興味のある方はぜひご覧になって下さればと思います。



さて、その他、オランダの心理学者であり、占星家でもあるカレン・ハメーカー氏(Karen Hamaker-Zondag)が"The Yod Book"の中で、上記に挙げた特徴以外にも、以下のような指摘をしています。



①出生図にYODを持つ人には、人生の中で明確なターニングポイントが準備されている。人生においてその前半と後半では180度異なる生き方をする。

②出生図にYODを持って生まれてきた子供は、その家系で何代にも渡ってくすぶっていた課題に終止符を打つために生まれてくる。
その子供は水面下に潜んでいた家系の課題を表面化させるため、様々な問題を引き起こすことがある。
しかし結果的にはその子供と子孫によって、(良くも悪くも)家系に「新しいパターン」が形成されていくようになる。



①については、YODを持たなくても、例えば主要天体やアングルへのtトランスサタニアンのアスペクト等で経験されている方も多いです。
ただYOD的な気付きを得られるという点で、t天体(特にトランスサタニアン)が出生図のYODの一角、もしくはブーメラン型が形成されるようアスペクトするとき、その目的や象意を自覚することができると書かれていました。

②については、ハメーカー氏自身が実際にいくつかの家系を選び、それぞれ何代か遡って検証したそうです。
その家系に潜む共通した課題に対し、YODを持つ子孫がどのように対峙していくのかといった点で一定の法則を見出したようです。
YODを持つ子供はその家系の"crossroad(岐路)"になるのだということで、とても興味深いです。
私もぜひそういった検証をしてみたいのですが、家系を遡るためのデータが乏しいということと、何をもって「課題」とするのかという観点が不明なため、現実的にはなかなか難しそうです。




1867/10/14 愛媛県松山市
そこで、①について検証してみたいと思います。

またもやオタク丸出しで恐縮なのですが、左図は文学者、正岡子規の出生図です。
出生時間不明のため、12:00で設定しています。
月の位置やハウスは考慮しません。

正岡子規はその短い生涯の中で小説・随筆・漢詩と多方面に渡る創作活動をしたことで有名ですが、やはり俳人・歌人としてのすば抜けた技量と、鋭い評論がクローズアップされることが多いように思います。

牡羊座海王星を頂点とした蠍座火星-乙女座ドラゴンヘッドとのYOD。
蠍座火星は水星とコンジャンクション。水星はYODのオーブからは外れますが、私はこの水星もYODの一角に含まれると考えます。


幼い頃から虚弱体質であった常規(つねのり…子規の本名)は、幼い頃に父親を亡くし早くに家督を継ぎます。内向的でいじめられっ子。しかしその環境が常規に漢詩や戯作の素養を深めるきっかけとなりました。
帝国大学の哲学科に入学しますが、のちに国文科へ転科。活発な学生生活を楽しんでいましたが、1888年8月、旅行中に最初の喀血をします。


1888年8月
YODの頂点のn海王星に対し、t天王星がオポジション。ブーメラン型を形成している時期でした。

翌年1889年春にはさらに大喀血し、医師に肺結核と診断されます。
当時、結核は不治の病でした。常規は若干22歳という若さで、死を意識せざるを得ない状況に直面したのです。

同年、常規は「子規」と名乗り、最も有名であり、また後世の文学者に多大な影響を与えた俳句雑誌「ホトトギス」を創刊しました。
「子規」とはホトトギスの漢字表記です。血を吐くまで鳴き続けるホトトギスと自らの行く末を重ね合わせたのです。

蠍座火星-水星のコンジャンクションは牡牛座冥王星とオポジション。深く深く潜り、洞察する集中力。
写実主義を標榜する子規の俳句には、十七語という短い言葉の中に膨大な情報と情景、心情までもが凝縮されています。

のちに寝たきりになり、座ることさえできない耐え難い痛みに襲われても、その精神の活発さは衰えることはありませんでした。
死の二日前まで毎日発表し続けた「病牀六尺(びょうしょうろくしゃく)」という随筆には、自身の肉体と精神をあくまで客観視し続けた記録がつづられていますが、感傷や暗い影はみじんも感じられません。


①でハメーカー氏が指摘した通り、1888年にブーメラン型が形成されたことが「明確なターニングポイント」になったと言える子規ですが、その運命は時に残酷さを持つこともあるのだと、何とも言えない気持ちになります。

最後に、私の一番好きな子規の句をご紹介して終わりにしたいと思います。

真砂(まさご)なす 数なき星の其(そ)の中に 吾(われ)に向かひて光る星あり 
(夜空を見上げると、砂浜の砂のように数えきれないほどのたくさんの星がある。その中には私に向かって光っている星もあるのだ)

最後まで自分の道を力一杯に全うした子規は、自分の使命というものに気付いていたのかもしれません。

6 件のコメント:

  1. しつこく小林です(笑)
    まさにトカトントン、YODの特徴にあてはまりすぎてます^^

    >家系を遡るためのデータが乏しいということと、何をもって「課題」とするのかという観点が不明なため、現実的にはなかなか難しそうです。

    確かにそうですね…!

    私の人生の最大の謎はYOD(ブーメラン)にあると感じているのですが
    その課題が克服できているのか?も、今ちょうど過渡期な感じでわからない状態なので結論は出ないんですが…
    私が家系についてずっと観察したり、私が終わらせるんだといった使命感があったのはYODがあるからかー、と占星術をやってやっと納得しました。
    でも今はまた中断、方向転換~ってなったらどうしよう~と静観中でもあります。
    何かYOD研究のためにシェアできたらいいなと思います。
    語ると何時間かかるのか…というところですが(^^;)

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    1. 小林さん、いつもコメントありがとうございます。

      >私が家系についてずっと観察したり、私が終わらせるんだといった使命感があったのはYODがあるからかー、と占星術をやってやっと納得しました。

      家系の問題は、私の今の技量ではなかなか判断が難しいのですが、よく分からないけれど何となく特殊な使命を帯びている気がして仕方がない、といった感覚はYOD特有だと思います。

      >でも今はまた中断、方向転換~ってなったらどうしよう~と静観中でもあります。

      ブーメラン型は「中断」が起こりやすいため、同じアスペクトを持つ私も、果たしてこの道で正しいのかどうかという感覚は常にあります。
      でも小林さんはきっと今取り組まれていることで大きく発展されていくと思いますよ!

      私も、皆さんといろいろなアスペクトの象意をシェアできたら嬉しいです。近いうちにまたお会いしましょうね!ありがとうございました。

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  2. 桐吉先生、こんにちは!

    私はオーブ3とると、YODは2つとも形成されなくなるのですが、
    今までの人生で経験・体感することが多かったので、緩いけど、あるものと見做しています。
    今回列挙されていた特徴、本当に「そうだな、そうだなぁ」って頷くことばかりです。

    不勉強なのでYODとブーメランの違いがまだよくわからないのですが、
    「トカトントン」が聞こえやすいのはブーメランの方なのでしょうか?
    YODですと、「聞こえないまま邁進する」という感じになるのかな。
    しかし!「トカトントン」をそんな風に読んだことがなかったので、
    新しさに興奮した金星牡羊座です。笑

    「強制終了される」とかじゃなくて、「トカトントンが聞こえる」って表現すると、
    何かマイルドでユーモアがあってイイナと感じます(^o^)

    調べてみたら、佐藤春夫もブーメラン持ちでした。
    春夫も正岡子規と同じく、芸術的活動は多岐に渡っていて(小説・詩・和歌・童話をはじめ、絵画や作詞作曲まで‥)、
    ひょっとするとトカトントン、聞こえていたのかもしれません。
    過度の神経衰弱に何度も陥りながらも、芸術に邁進して下さったおかげで、
    こんにち時間を超えて素晴らしい作品に触れることができるんですね。
    うれしいやら切ないやら・・という感じがあります。

    正岡子規も佐藤春夫も、「これだったんだ!!」という実感・充実感にたどり着いていたと
    信じたいです。

    「病牀六尺」は落ち込んだ時によく読んでいました。
    病床の作者に逆に励ましてもらってどーするンだ‥って感じですが(^_^;)
    今回、桐吉先生の鋭くあたたかいご考察を読み、
    子規という人が、これまでとは違った質量と迫力で、胸に迫ってきました。

    YODはまだまだ考えてみようと思っています。
    あっ、それから、T木星が2016年6月末にブーメラン形成していたことを発見しました。
    ずっと自分には向いていないと思ってたことをごく自然にやめた時期だったので、
    いま驚いています。
    そのおかげで占星術にのめり込むなったのでうれしいです。

    自分のことばかり、しかも長文ですみません!!
    今回もたくさん勉強させて頂きました。
    ありがとうございます。

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    1. ひぃさん、いつも素敵なコメントをありがとうございます。
      また、佐藤春夫のブーメラン型も教えて下さってありがとうございます。
      私にとって佐藤春夫は小説家というより「たくさんのお弟子さんを抱える先生」といったイメージが強かったためノー・マークでした…不届者ですね(^o^;)

      >「トカトントン」が聞こえやすいのはブーメランの方なのでしょうか?
      >YODですと、「聞こえないまま邁進する」という感じになるのかな。

      私の説明が足りず分かり辛くて申し訳なかったのですが、ものすごくざっくり言えば、ブーメラン型は、インコンジャクトの強い締め付けによって今まで努力してきたことをちゃぶ台をひっくり返すように台無しにしてしまいやすい、といった一面があると考えられています。

      ですから「方向転換させられる」「中断させられる」といった点での"トカトントン"、という音はYODにもブーメラン型にも共通していると思うのですが、ブーメラン型の方がより複雑で、より内的な要因が潜んでいるように私には思われます。

      ただ最近は外国の占星家によってブーメラン型の新しい解釈もいろいろ出てきているようなので、そのあたりも自分なりにいろいろ検証してから、こちらで記事にできればと思っています。

      正岡子規や佐藤春夫が、後世に生きる私達へ命を削って本物の芸術を残してくれたのは、きっと私達に想像できないような苦しみを抱えながらも「使命を果たしたから」なのでしょうね。
      ひぃさんも私も、人生の目的を知り、それを全うできるよう、一緒に勉強しながら試行錯誤していきたいですね。
      ありがとうございました。

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  3. 佐藤春夫には詳しくないのに、たまたま判明したので、桐吉先生の研究の一端になればと
    おこがましくも書きました(^o^;)

    >ブーメラン型の方がより複雑で、より内的な要因が潜んでいるように私には思われます。

    なるほど!そういう意味合いなのですね。
    オポジションがあるのでYODよりも外的に働きかけるパワーがあるからかな。
    より複雑で内的な要因が潜んでいるのですね。
    やはり奥が深いです・・・

    桐吉先生のおっしゃる通り、「人生の目的を知り、それを全うできる」ようになりたいです。
    完全燃焼したいなぁって思います。
    それには、「また今度もちがうかもしれないなぁ」と思っても、
    色々なことにチャレンジすることが大事なのかもしれませんね。

    どうせ苦しいならば(笑)、楽しみながら、がいいですね(*^^*)




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    1. ひぃさん、重ね重ねコメントをありがとうございます。
      まだ火星の年齢域である私やひぃさんの「人生の目的」は未だ遠いところにあるのかもしれません。
      でもひぃさんがおっしゃるように、いろいろなことに楽しんでチャレンジすることが「人生の目的」につながると同時に、火星域でのミッションなのかもしれませんね。
      データも教えて下さって、本当にありがとうございました(*^o^*)

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